地球表面をなぞって目的地まで行くのに、辿りやすいルートとそうではないルートがあります。目的地が同じであれば、崖を乗り越えるよりも優しい坂を登るルートを選びます。したがって、地形そのものが変われば、選ばれるルートも変化していくでしょう。
言語においても、同様のことが言えます。同じ意味の言葉でも、伝え方が自然ときたり、抵抗を感じたりするということです。受け取る側からすると、分かりやすい、分かりにくい、となります。そして、言語そのものが異なれば、当然そのルートも変わります。伝え方、受け取られ方が変化します。つまり、ある言語を用いる限り、伝えようとする内容はその言語に影響されるということです。表現力はもちろん、思考のパターンも影響を受けるでしょう。これは認知言語学上の主要な概念で「言語相対性仮説」と呼ばれるものです。
以上のように、言葉の地形や、辿るルート、言葉と思考の関係について考えてきました。そしてこのテーマを創造的に探検するための素材として人工言語を思いつきました。数理的で構文が極めて単純、しかし人間の言葉のようでもある、プログラミング言語の一種「連鎖性」の移植のようなものです。この言語を扱って、既存の言語を用いずに、現実から一歩抽象化された空間、オリジナルのルールでの実験を試みました。私の制作した人口言語を通して、言語の地形について考えていただきたいと思います。
「ことばから考えてみると」は東京藝術大学 大学院 映像研究科 メディア映像専攻の修了制作として生まれたものです。修士2年生修了制作展「Media Practice」(2017年1月14〜15日)にて公開されました。
チリからの留学生として、日本語は習得した3ヶ国語目です(ネイティブのスペイン語と英語の次)。言葉というキーワード、そして思考との関連は、私の中で徐々に大きくなってきたテーマです。特に日本語は以前慣れていた言語とかなり異なり、習得することで色々と考えさせられました。プログラマーでもある私は、プログラミング言語、数学などにも、別の種類の「言語」にも同じようなパターンを感じてきました。そのため、こういった試みを行ったのです。
Ale Grilli(アレ グリリ)は東京藝術大学 大学院 映像研究科 メディア映像専攻で2015年から2年にかけて学習したチリの留学生です。 グラフィックデザイン学部卒業生でありながら独学のプログラマーでもあります。